日本の競馬ファンにとって、「薔薇一族」という言葉は特別な響きを持つ。ロゼカラーから始まり、ローズバド、そしてローズキングダム。常に重賞戦線の中心にいながら、牝馬G1のタイトルには、あと一歩、指先が触れるほどの距離で届かなかった。
宿命を背負った最終世代
2019年、大種牡馬キングカメハメハのラストクロップとしてスタニングローズは産声を上げた。その血統表にはローズバドの名が刻まれ、一族の悲願は彼女の細い肩に託された。 3歳春、フラワーカップでの重賞初制覇は、亡き父への弔砲となった。しかし本番のオークス。直線の入り口、一瞬夢を見た先頭。しかし、外から強襲したスターズオンアースの影に、勝利は奪われた。「やはり一族の宿命なのか」。誰もがそう思った秋、彼女は阪神の坂を力強く駆け上がった。
秋華の頂、そして静寂の時
2022年10月16日。ライバルたちの猛追を封じ込めたあの直線、スタニングローズはついに薔薇一族初の牝馬G1馬となった。それは呪縛からの解放であり、新たな歴史の始まりだった。 しかし、競馬の神様は残酷だった。その後、彼女は長い低迷期に入る。掲示板を外す日々、怪我、そして2年の月日が流れた。人々は彼女を「過去の馬」として記憶の隅に追いやり始めていた。
終わらない夢、エリザベス女王杯
2024年、秋。5歳になった彼女は、淀のターフで奇跡を見せる。かつての覇気が戻った馬体、鋭い眼光。C.デムーロに導かれ、3コーナーから一気にまくり上げた姿に、かつての秋華賞馬の面影が重なる。 ゴール板を駆け抜けた瞬間、それは単なる「復活」ではなかった。どんなに叩かれても、枯れても、根を張っていれば必ず再び花を咲かせることができる。彼女は身をもってそれを証明した。
「彼女は素晴らしい競馬力の持ち主だ。どんな状況でも落ち着き、自らの仕事を全うする」
――高野友和
2025年、彼女は次なるステージへ向かう。ドウデュースとの配合が発表され、薔薇の血脈は次世代へと引き継がれることになった。 美しく、力強く、そして何よりも不屈であったスタニングローズ。彼女が咲かせた二輪のG1という大輪は、競馬史という名の庭園で、永遠にその輝きを失うことはないだろう。




