アメリカからやってきた一頭の栗毛。その名は、日本の爽やかな飲み物に由来する「レモンポップ」。しかし、その爽快な名前に反して、彼が刻んだ足跡はあまりにも力強く、重厚だった。日本のダート界において、これほどまでに「負けない姿」を印象づけた馬が他にいただろうか。
不屈の歩みと、田中厩舎の絆
田中博康調教師が初めて彼を見た時、その完璧な筋肉の鎧に「特別」を感じたという。デビューから連勝街道を歩むも、途中で足踏みした時期もあった。しかし、陣営は彼の資質を信じ抜き、丁寧に、大切に育て上げた。特に、レース以外では「エコ」に徹し、走る時だけ猛獣へと変貌する彼の賢さは、田中調教師との深い信頼関係があったからこそ花開いたものだ。退厩の日に見せた調教師の涙は、単なる管理馬への愛を超えた、戦友への心からの敬意だった。
大差、そしてハナ差の美学
レモンポップを語る上で欠かせないのが、2023年南部杯で見せた「大差」の逃げ切りだ。後続を2秒も引き離すという、地方競馬の歴史を塗り替えるパフォーマンス。そして、2024年チャンピオンズカップで見せた「ハナ差」の死守。圧倒的な力の誇示から、執念の粘りまで、彼は王者に必要な全ての形をファンに見せつけた。国内で走る限り、誰にも先頭を譲らない。その美学を、彼は最後の最後まで、一歩も引くことなく貫き通したのである。
受け継がれる「黄金の飛沫」
通算18戦13勝。GI級6勝。国内連対率100%。並べられた数字以上に、彼の走りはファンの心を震わせた。引退式で冬の空の下、誇らしげに立っていた彼の姿は、もう「レモンポップ」という爽やかな名前ではなく、砂を支配した「皇帝」の風格そのものだった。今、彼は北海道の地で次世代へとその血を繋ぐ役割を担っている。いつかまた、黄金の砂を蹴立てて加速する彼にそっくりの産駒が、私たちの前に現れる日を信じて。砂の王者の物語は、ここからまた新章へと続いていく。
「レモンポップは、私の人生で二度と巡り合えないような素晴らしい馬です」
――田中博康
砂が舞い、熱狂が渦巻く直線の先に、いつも彼の背中があった。日本競馬が誇る最強のダートキング。その名は、永遠に色褪せることのない黄金の記録として、私たちの記憶に刻まれ続けるだろう。



