デビュー戦、11着。その背中に王者の面影を感じた者は少なかったかもしれない。しかし、ホッコータルマエという物語は、泥を被るたびに、敗北を喫するたびに、その輝きを増していった。彼は「天才」という言葉で片付けられるような馬ではなかった。一歩一歩、砂を噛み締めながら己の限界を押し広げていった「努力の怪物」だった。
不屈の象徴、10勝への険しき道
彼が積み上げたG1・Jpn1の10個の勲章は、日本競馬の歴史における重い足跡だ。エスポワールシチー、ヴァーミリアンといった偉大な先達が築いた「9勝」の壁。それを超えるための戦いは、決して平坦ではなかった。ドバイでの大敗、海外遠征後の体調不良。絶望の淵に立たされるたび、彼は信じられないような回復力でターフに戻ってきた。西浦調教師の執念と、幸騎手の確かな手綱。チーム・タルマエの絆が、不可能を可能に変えていった。
「鉄人」が見せた、世界の背中
ホッコータルマエの偉大さは、国内の成績だけに留まらない。3年連続となるドバイへの挑戦。それは、日本のダート馬が世界とどう向き合うべきか、その道標を示す戦いでもあった。2015年、直線で一時先頭を捉えようかというシーン。結果は5着。しかし、メイダンの砂塵の中で見せたあの走りは、日本のファンに「いつか、世界の頂点へ」という夢を見せるに十分なものだった。彼は負けてなお、砂の王者の誇りを失わなかった。
故郷の山のように、揺るぎなく
現役最後の日、彼は静かに戦線を去った。左前肢の跛行。それは、39戦という激闘を戦い抜いた体が、最後に上げた叫びだったのかもしれない。通算獲得賞金10億円超。その数字以上に、彼が残したものは大きい。苫小牧の街に、故郷の山に、そしてファンの心に刻まれた「タルマエ」という名前。彼は今、種牡馬として新たな夢を繋いでいる。その産駒たちが砂を蹴る音を聞くたび、私たちは思い出すだろう。どんなに深い砂であっても、決して止まらずに進み続けた、あの孤高の王者の姿を。
「彼は本当のプロフェッショナルだった。どんな時も自分の仕事を全うし、最後には必ず勝ちにいく。そんな馬に出会えたことは、私の誇りです」
――幸英明
歴史は塗り替えられるものだ。しかし、最初に10勝という頂きに到達した者の名は、決して色褪せることはない。ホッコータルマエ。その不屈の魂は、これからも日本のダート界を照らし続ける灯火となるだろう。





