「黄金の時代」という意味の名を冠した一頭の馬がいた。その名はエポカドーロ。伝説の三冠馬オルフェーヴルの初年度産駒として生まれた彼は、父が歩んだ輝かしい、けれど荒々しい道をなぞるようにして、日本競馬の歴史にその名を刻み込んだ。
シンデレラ・ストーリーの幕開け
彼が生まれた田上牧場は、日高の地にある家族経営の小さな牧場だった。セレクトセールでの落札価格は決して高くはなく、期待は控えめだったかもしれない。しかし、そんな彼には、誰にも負けない「勝負根性」が備わっていた。デビューから半年足らず。稍重の中山競馬場。霧の中、黄金色の馬体が坂を駆け上がった時、日本中が目撃したのは、血統のロマンが現実を追い越した瞬間だった。皐月賞。父がかつて制した舞台で、彼は「オルフェーヴルの後継者」としての証明を完遂したのである。
府中に散った、0.1秒の悔恨
運命の日本ダービー。彼はパドックですら自分を貫き、わがままを通した。しかし、一度ゲートに入ればその瞳は闘志に燃えていた。自ら逃げを打ち、淀みないペースで17頭を先導する。直線、粘りに粘った。ゴール板の直前まで、栄冠は彼の頭上にあった。しかし、わずか0.1秒。クビ差。内側で落鉄していた蹄が、どれほどの痛みを発していたのかは彼にしかわからない。けれど、彼は決して走ることをやめなかった。その悔しさは、戸崎騎手の涙と共に、多くのファンの心に「敗れてなお強し」の記憶として刻まれた。
次代へと続く「黄金の時代」
4歳という若さでの引退。鼻出血という不運に見舞われ、彼の競走生活は突如として幕を閉じた。しかし、彼の物語には続きがある。種牡馬となった彼は、かつての父のように、その闘志を子供たちへと受け継ぎ始めている。園田や盛岡、そして全国のターフで、エポカドーロの血を引く若駒たちが砂を蹴り、風を切っている。数字では測りきれない勇気。小さな牧場の大きな誇り。エポカドーロが駆け抜けた「黄金の時代」は、まだ終わっていない。その夢は、今も北の大地で、そして次代を担う産駒たちの蹄音の中で、静かに、しかし熱く燃え続けている。
「彼は父に似て、負けず嫌いなところがありました。その根性が、あの皐月賞を勝たせたんです」
――藤原英昭
私たちは忘れない。2018年の春、泥だらけになりながら、誰よりも誇り高く中山の坂を駆け上がった、あの黄金の馬体を。エポカドーロ。その名は、これからも語り継がれるだろう。不屈の精神と、美しき敗者の物語として。



