ダノンベルーガ:未完の天才が描いた不屈の軌跡
Danon Beluga

The Unfinished Danon Beluga

「あと一歩」の先に、
彼が見つめた夢があった。

PROFILE

生誕2019.02.07
調教師堀宣行 (美浦)
主戦騎手川田将雅 / J.モレイラ
通算成績16戦2勝 [2-1-2-11]
主な勝鞍 共同通信杯 (G3)
ドバイターフ (G1) 2着
天皇賞・秋 (G1) 3着
ドバイターフ (G1) 3着

PEDIGREE

FATHER
ハーツクライ
(日本) 2001
サンデーサイレンス
アイリッシュダンス
×
MOTHER
コーステッド
(米国) 2014
Tizway
Maldonado

父は世界を制したスタミナの巨星、母は米国の芝G1で2着に入った快速馬。 ハーツクライ産駒らしい豊かな成長力と、母系のスピードが見事に融合した。 「加速にもたつくが、一度火がつけばシャープな瞬発力を見せる」という一族特有の個性を色濃く受け継いでいる。

CAREER RECORD

全レース成績

TOTAL: 16 RUNS 2 - 1 - 2 - 11
DATERACE NAMECOURSE / DIST.JOCKEYRESULT
2025.11.30ジャパンカップ (G1)東京 / 芝2400m佐々木大輔13th
2025.08.31新潟記念 (G3)新潟 / 芝2000m佐々木大輔13th
2024.12.22有馬記念 (G1)中山 / 芝2500m松山弘平9th
2024.11.24ジャパンカップ (G1)東京 / 芝2400m松山弘平9th
2024.10.27天皇賞・秋 (G1)東京 / 芝2000mC.デムーロ14th
2024.03.30ドバイターフ (G1)メイダン / 芝1800mJ.モレイラ3rd
2023.11.26ジャパンカップ (G1)東京 / 芝2400mJ.モレイラ6th
2023.10.29天皇賞・秋 (G1)東京 / 芝2000mJ.モレイラ4th
2023.08.20札幌記念 (G2)札幌 / 芝2000mJ.モレイラ4th
2023.03.25ドバイターフ (G1)メイダン / 芝1800mJ.モレイラ2nd
2022.11.27ジャパンカップ (G1)東京 / 芝2400m川田将雅5th
2022.10.30天皇賞・秋 (G1)東京 / 芝2000m川田将雅3rd
2022.05.29日本ダービー (G1)東京 / 芝2400m川田将雅4th
2022.04.17皐月賞 (G1)中山 / 芝2000m川田将雅4th
2022.02.13共同通信杯 (G3)東京 / 芝1800m松山弘平1st
2021.11.212歳新馬東京 / 芝2000m石橋脩1st
CAREER HIGHLIGHTS

不屈の閃光

01
Kyodo News Hai
1-1
2022.02.13 / 東京 1800m

THE EMERGENCE

第56回 共同通信杯

新馬戦を快勝して挑んだ2戦目。直線、馬群の外から繰り出した末脚は、他馬とは明らかに次元が違っていた。 のちのG1馬ジオグリフを子供扱いにするような豪快な差し切り。 「今年のクラシックは、この馬で決まりだ」──誰もがそう確信した、衝撃の重賞制覇だった。

LAST 3F
33.7
RESULT
Winner
02
Tenno Sho Autumn
3
2022.10.30 / 東京 2000m

THE RESISTANCE

第166回 天皇賞(秋)

パンサラッサの大逃げ、イクイノックスの追撃。歴史に残る超高速決戦の中、彼は確かに「最強」の牙城を脅かした。 直線、内から力強く伸びて一度は先頭を伺う勢い。結果は3着。 しかし、勝ち馬との差はわずか0.2秒。世界1位を追い詰めたその走りは、彼が間違いなく怪物の一角であることを証明した。

1着 イクイノックス 3着 ダノンベルーガ
03
Dubai Turf
5
2023.03.25 / メイダン 1800m

GLOBAL VALOUR

ドバイターフ

海を越えて辿り着いたドバイの地。世界の強豪がひしめく1800mの舞台で、モレイラ騎手の手綱に応え究極の瞬発力を爆発させた。 勝ち馬ロードノースにあと一歩、3/4馬身差まで詰め寄った銀メダル。 「国内G1未勝利」という肩書きが、あまりにも不当に思えるほど、彼の輝きは国際級の輝きを放っていた。

DISTANCE
1800m
RESULT
2nd
04
Tokyo Yushun
12
2022.05.29 / 東京 2400m

THE PROMISE

第89回 日本ダービー

単勝3.7倍、1番人気。世代の頂点に最も近いと目された運命の日。 ドウデュース、イクイノックスとの死闘の末、掲示板に灯ったのは「4」の数字。 わずか0.4秒差。その僅かな差が、彼の運命を分けたのかもしれない。 敗れてなお色褪せないその気高さが、多くのファンの心を縛り付けて離さなかった。

1着 ドウデュース 4着 ダノンベルーガ
DATA ANALYTICS

左回りの
スペシャリスト

ダノンベルーガの成績を語る上で欠かせないのが、極端なまでの「左回り」への適性だ。 キャリア全2勝、そしてG1での好走のほとんどが左回りコースに集中している。 これは、幼少期に負った右後脚の重傷というハンデを克服しながら戦い続けた、彼の「不屈の証明」でもある。

2-1-2-6

LEFT-TURN RECORD

左回りコース成績

※全16戦中11戦が左回り

DIRECTIONAL PERFORMANCE

回り別適性の差異
LEFT-HANDED (TOKYO/DUBAI) WIN: 2
BEST PERFORMANCE
RIGHT-HANDED (NAKAYAMA/HANSIN) WIN: 0
WEAK POINT
G1 TOP 5 PLACEMENTS 8 TIMES
CONSISTENCY
勝利・好走圏内
BELUGA
もともと大きなウィークポイント(右後脚の不安)を持った馬なんです。
けれども、彼はしっかりこなしています。
調教師 堀宣行
2022年天皇賞秋 会見より
彼は素晴らしいハートを持っている。
勝たせてあげたかった。
主戦騎手 J.モレイラ
ドバイターフ後のコメント
FAN VOICES

ファンからの声

B

引退お疲れ様。重い前髪と大きな流星、本当にハンサムな馬でした。G1こそ届かなかったけど、あなたが見せてくれた末脚は間違いなく世界一だったよ。

S

イクイノックスやドウデュースという化け物と真っ向勝負し続けたダノンベルーガ。彼がいたからこそ、2019年世代は「最強」と呼ばれたんだと思う。

T

乗馬として東京競馬場に残ってくれるなんて最高に嬉しい!また府中であの綺麗な馬体に会えるのを楽しみにしてるよ。

BEHIND THE SCENES

秘蔵エピソード

「報われない天才」と呼ばれた彼の、真実の姿

01

奇跡の復帰と「宿命」

デビュー前、牧場時代に右後脚を襲った大ケガ。一時は競走馬としての道を断たれるほどの重症だった。 しかし、懸命な治療と彼の強い意志が奇跡を起こし、ターフへと戻ってきた。 生涯、右回りを苦手としたその「弱点」は、彼が死線を越えて走っていることの裏返し。 ハンデを言い訳にせず、常に世界の一線級に挑み続けた姿は、静かな感動を呼び起こした。

02

ダノン一族の「個性」

堀調教師が語った「加速でもたつくのも、この馬の個性」。 ダノンベルーガやその弟たちに共通する、一筋縄ではいかない「気の強さ」と「不器用さ」。 エンジンがかかるまで時間はかかるが、一度火がついた時の爆発力は誰にも真似できない。 そんな人間臭い、不器用な天才ぶりが、多くの熱狂的なファンを生んだ理由だった。

Do Deuce
THE DESTINED RIVAL
ETERNAL SHADOW

DO DEUCE

ドウデュース

同じ父ハーツクライを持ち、同じ2019年に生を受けた最大のライバル。 2022年、日本ダービー。1番人気の支持を受けたベルーガの前に立ちはだかったのは、武豊騎手とドウデュースだった。

光り輝く主役の座を掴んだドウデュースに対し、ベルーガは常にその影を踏み、時に肉薄し、時に苦汁をなめた。 しかし、2023年の天皇賞・秋ではベルーガが先着するなど、その差は常に紙一重。 二頭のハーツクライ産駒が描いたコントラストは、この世代の物語をより深く、切実なものにした。

2022 TOKYO YUSHUN
4th ダノンベルーガ
vs
1st ドウデュース

未完のまま、伝説へ

未完のまま、伝説へ

競馬の歴史において、「勝利」だけが価値の基準ではない。 時として、敗れ続けた馬が、勝った馬以上に雄弁に何かを語ることがある。 ダノンベルーガ。その名は、私たちの心に深く刻まれた「未完の美学」そのものだ。

1番人気という、重すぎる冠

2022年の春、ダノンベルーガは日本競馬の未来そのものだった。 共同通信杯で見せたあの異次元の末脚。のちの皐月賞馬ジオグリフを置き去りにしたあの瞬間の衝撃を、忘れることはできない。 日本ダービーで1番人気に支持されたことは、必然だった。 しかし、運命は非情だ。極限の争いの中で、彼はわずかに届かなかった。 その「わずかな差」を埋めるための戦いが、そこから始まった。

世界が認めた「幻のG1馬」

国内でタイトルに届かない彼を、世界は別の目で見守っていた。 ドバイの地で、彼は二度までも表彰台に上がった。 「あの日、ドウデュースに勝っていたら」「あの日、イクイノックスと同じ枠だったら」 そんな「もし」がこれほど似合う馬は他にいない。 しかし、彼が右後脚に抱えていた宿命的なハンデを知れば、その「あと一歩」がいかに尊いものだったかが理解できる。 彼は、不完全な翼で、世界の頂を飛び越えようとしていたのだ。

最後に見た、東京の空

2025年11月30日、ジャパンカップ。 かつて輝いた舞台で、彼は13着と大敗し、静かにターフを去ることを決めた。 通算16戦2勝。数字だけを見れば、彼を「天才」と呼ぶことに異論を唱える者もいるだろう。 だが、彼が戦った相手を見ればいい。彼が刻んだラップタイムを見ればいい。 そして、彼がどれほどの熱狂をファンに与えたかを思い出せばいい。

「勝たせてあげたかった。それだけです。」
――関係者の言葉

G1というタイトルを、彼は手にすることはなかった。 けれど、記録には残らなくても、私たちの「記憶」という名の最も高い場所には、いつも彼の美しい末脚が焼き付いている。 東京競馬場の乗馬として、彼はこれからも愛され続ける。 「あの時は惜しかったね」と声をかけられるたび、彼はきっと、あの日の府中やメイダンの風を思い出すのだろう。 さようなら、誇り高き未完の天才。あなたの物語は、まだ終わらない。