競馬の歴史において、父の背中を追うことは時に呪縛となり、時に誇りとなる。アドマイヤマーズにとって、父ダイワメジャーは超えるべき巨大な壁であり、その血は彼の中に「負けない心」を植え付けた。栗毛の馬体を躍動させ、マイルの直線で誰よりも先に抜け出すその姿は、かつて府中や阪神を沸かせた父の生き写しだった。
無敗の王者が背負った使命
デビューから無傷の4連勝。朝日杯FSでグランアレグリアを退けた時、彼は単なる「期待馬」から「世代の象徴」へと昇華した。しかし、3歳春のクラシック戦線では2000mの壁に苦しみ、一度は頂点から遠ざかりかける。そこで陣営が下した決断は、迷いなきマイルへの回帰だった。NHKマイルC。前半から激しく流れる展開の中で、彼は誰よりも冷静に、そして誰よりも熱く、東京の長い直線を駆け抜けた。ゴール後のミルコ・デムーロの咆哮は、不振に喘いでいた相棒への、そして自身への最高の賛歌だった。
海を越えた魂の継承
最大のドラマは、香港・シャティン競馬場で待っていた。愛してくれた近藤オーナーの急逝。悲しみに包まれるチームの中で、アドマイヤマーズだけは毅然としていた。アウェーの地、世界の名馬が揃う香港マイル。ゲートが開くと、そこには「強いアドマイヤ」を世界に見せつけようとする意志そのものが走っていた。スミヨンの鞭に応え、猛烈な末脚で香港の英雄ビューティージェネレーションを飲み込んだ瞬間、海を越えて日本の競馬ファンの魂が一つになった。友道調教師が着ていたオーナーのスーツは、歓喜の涙で濡れていた。
鉄人の血は次代へ
その後、古馬となってからも彼は走り続けた。女王グランアレグリアの猛追に屈した日もあった。しかし、その敗北ですら彼の価値を損なうものではなかった。どんなペースでも前を追い、どんな苦境でも脚を伸ばす。その「折れない心」こそがアドマイヤマーズの真骨頂であり、彼が愛された理由だった。通算13戦。その戦いの記録は、単なる数字の羅列ではない。一頭の馬と、それに関わる人々が紡いだ、情熱と執念の結晶である。
「けがをすることもなく丈夫な馬で、その丈夫さが子供たちにも遺伝してほしい」
――友道康夫
いま、彼の血は種牡馬として次代へと受け継がれている。かつて彼が切り裂いたシャティンの風は、いまその産駒たちの翼となって、再び世界へと羽ばたこうとしている。私たちは忘れない。異国の空の下、誰よりも力強く、誰よりも美しく、勝利の雄叫びを上げた情熱の弾丸、アドマイヤマーズの名前を。




