タケホープ:怪物ハイセイコーを打ち砕いた不屈のステイヤー
Take Hope

The Stalwart Take Hope

「ハイセイコーが四ツ脚なら、
こっちだって四ツ脚だよ。」

PROFILE

生誕1970.03.24
調教師稲葉幸夫 (美浦)
主戦騎手嶋田功
通算成績19戦7勝 [7-0-3-9]
主な勝鞍 東京優駿 (日本ダービー)
菊花賞
天皇賞・春
アメリカジョッキークラブカップ

PEDIGREE

FATHER
インディアナ
(英) 1961
Sayajirao
Willow Ann
×
MOTHER
ハヤフブキ
(日) 1963
タリヤートス
ハヤカゼ

父は英国の長距離スペシャリスト、母の父は重厚なスタミナを伝える名血。 姉タケフブキもオークスを制した良血であり、その血統背景には「府中の長い直線」と「3000m超の極限」を走り抜くための天賦の才能が刻まれていた。

CAREER RECORD

全レース成績

TOTAL: 19 RUNS 7 - 0 - 3 - 9
DATERACE NAMECOURSE / DIST.JOCKEYRESULT
1974.12.15有馬記念中山 / 芝2500m嶋田功3rd
1974.05.05天皇賞・春京都 / 芝3200m嶋田功1st
1974.03.10中山記念中山 / 芝1800m嶋田功3rd
1974.01.20AJCC東京 / 芝2400m小島太1st
1973.11.11菊花賞京都 / 芝3000m武邦彦1st
1973.05.27東京優駿 (日本ダービー)東京 / 芝2400m嶋田功1st
1973.04.284歳中距離S東京 / 芝2000m嶋田功1st
1973.01.20若竹賞東京 / 芝1600m小島太1st
1972.07.153歳新馬東京 / 芝1100m嶋田功1st
CAREER HIGHLIGHTS

不屈の証明

01
Tokyo Yushun
7-21
1973.05.27 / 東京 2400m

GIANT KILLING

第40回 東京優駿(日本ダービー)

国民的アイドル、ハイセイコーが単勝支持率66.7%を誇ったあの日。 大外21番枠から静かに牙を剥いたのは、9番人気の伏兵だった。 熱狂のスタンドを沈黙させる一完歩。怪物に1馬身4分の3差をつけ、当時のダービーレコードを更新。 「競馬は血統と実力だ」という冷徹な真実を突きつけた瞬間。

TIME
2:27.8
ODDS
9th
02
Kikka Sho
6-11
1973.11.11 / 京都 3000m

BY A NOSE

第34回 菊花賞

「ダービーはフロックだった」という世評を跳ね除ける、澱みのないステイヤーの走り。 急遽代打を務めた武邦彦の手綱に導かれ、直線で再びハイセイコーと並ぶ。 死闘の末、ハナ差だけ前に出たその鼻面が、彼が真の「実力者」であることを、何よりも雄弁に物語っていた。

1着 タケホープ 2着 ハイセイコー
03
Tenno Sho Spring
1-1
1974.05.05 / 京都 3200m

STAYER'S PRIDE

第69回 天皇賞(春)

二冠馬の誇りを賭けた長距離の極北。 厩務員ストという異例の事態を超え、満身創痍で挑んだ淀の3200m。 脇腹に拍車の跡が赤く滲むほどの壮絶な追い比べ。 ダービー・菊花賞の勝者が初めて春の盾を掴むという、歴史的偉業を成し遂げた。

DIST.
3200m
JOCKEY
嶋田功
04
AJCC
1
1974.01.20 / 東京 2400m

THE CHAMPION

アメリカジョッキークラブC

年度代表馬として迎えた5歳(現4歳)初戦。 小島太を鞍上に迎え、自身最高の馬体で登場した彼は、 ハイセイコーが9着に沈むのを尻目に悠々とゴールを駆け抜けた。 もはや「フロック」と呼ぶ者は誰もいなかった。

1着 タケホープ 9着 ハイセイコー
DATA ANALYTICS

破られた
ダービーレコード

1973年の日本ダービー。28頭という現代では考えられない多頭数、かつ外枠21番。 過酷な条件下でタケホープが刻んだタイムは、従来の記録を大幅に塗り替える2分27秒8。 この数値は、単なる勝利以上の意味を持っていた。 それは「時代の寵児」への熱狂が、確かな「実力」の前に屈したことを示す、揺るぎない証拠だった。

2:27.8

DERBY RECORD

2400m 走破時計

※1973年 東京優駿

RECORD COMPARISON

府中の空気を変えた8分音符
PREVIOUS RECORD2:28.6
PAST BEST
TAKE HOPE (1973)2:27.8
NEW RECORD
TIME REDUCTION-0.8s
BIG IMPACT
タイム短縮幅
TAKE HOPE
ハイセイコーが四ツ脚なら、
こっちだって四ツ脚だよ。
主戦騎手 嶋田功
日本ダービー前の会見にて
あれだけの人気馬を負かしてしまって、
すまないなあという思いさえした。
調教師 稲葉幸夫
ダービー制覇直後の述懐
FAN VOICES

歴史の目撃者たち

S

ハイセイコーが負けた瞬間の、あの異様な静まり返ったスタンドを一生忘れません。誰もが怪物を信じていた中で、タケホープだけが冷徹に勝利をさらっていった。あれこそが勝負の世界の厳しさでした。

H

菊花賞のハナ差、天皇賞春の粘り。ハイセイコーが華なら、タケホープは根性。長距離になれば絶対に負けないという安心感がありました。血の滲むような拍車を受けても走り抜く姿に、真の名馬を見ました。

Y

種牡馬としては苦戦しましたが、競走馬としての資質は間違いなく一級品。現代のスピード競馬とは違う、泥臭くも力強い「スタミナの時代」を象徴する、日本競馬界が誇るべき偉大な二冠馬です。

BEHIND THE SCENES

知られざる逸話

怪物を破った馬の背後にあった、人間味溢れるドラマ

01

嶋田騎手の息子とハイセイコー

父である嶋田功騎手がタケホープでハイセイコーを破った日、嶋田の息子は母親の膝で泣きじゃくったという。当時のハイセイコーブームは、敵対する騎手の家庭すら飲み込むほど強烈なものだった。息子にとってのヒーローを、父が実力で引きずり下ろす。そんな皮肉なドラマが、あのダービーの裏側には存在した。

02

遅すぎた適性の発見

2歳時のタケホープは短距離戦で6連敗を喫している。誰もが彼を「期待外れ」だと思っていた時期だ。しかし4歳になり距離を伸ばすと一変。もし陣営が短距離に見切りをつけなければ、あのダービー制覇も、菊花賞の激闘もなかった。才能の芽が出る瞬間を信じて待ち続けた、ホースマンたちの執念の賜物である。

Haiseiko
THE DESTINED RIVAL
THE SUN AND THE MOON

HAISEIKO

ハイセイコー

大井からやってきた国民的アイドル。日本中がその勝利を疑わなかった太陽のような存在。タケホープはその輝きを遮る「冷たい月」の役割を演じ続けた。通算対戦成績ではハイセイコーに分があるが、ダービー、菊花賞、天皇賞・春という大舞台では常にタケホープがその前に立ちはだかった。互いに別々の適性を持ち、意地をぶつけ合った二頭。このライバル関係こそが、1970年代の競馬熱を最高潮へと押し上げた原動力だった。

1973KIKKA SHO
1stタケホープ
vs
2ndハイセイコー

実力だけが、真実。

実力だけが、真実。

1973年、日本競馬界は未曾有の熱狂に包まれていた。地方から現れた怪物ハイセイコー。その一挙手一投足に国民が酔いしれ、ダービーの日は誰もが彼の戴冠を疑わなかった。しかし、そのお祭り騒ぎの影で、鋭く研ぎ澄まされた刃のように出番を待つ一頭の馬がいた。タケホープ。英国のスタミナを継ぐその血脈は、華やかな喧騒よりも、泥臭い勝利の味を知っていた。

「フロック」と呼ばれた栄光

ダービーでの勝利。それは静寂から始まった。大外枠から忍び寄り、怪物を一蹴したタケホープ。しかし、ゴール板を過ぎても歓声は沸かなかった。スタンドを包んだのは「何が起きたのか」という当惑と、落胆。9番人気の勝利は「まぐれ」として片付けられ、彼は日本一のダービー馬でありながら、史上最も祝福されない覇者となった。続く秋の敗戦がその声を加速させる。「タケホープはフロックだった」。その言葉は、彼に関わる全てのホースマンの心に深く突き刺さった。

淀の3000メートル、証明のハナ差

汚名をそそぐ舞台は、菊花賞だった。代打・武邦彦とのコンビで挑んだ淀の長距離。直線、再びハイセイコーと馬体を並べる。一歩も譲らぬ叩き合い。観客の悲鳴にも似た声援を背に、タケホープは自らの意地だけを頼りに脚を伸ばした。写真判定の結果、ハナ差。わずか数センチの差が、彼が「本物」であることを世界に知らしめた。フロックなどではない、これは揺るぎない実力の証明なのだと。この瞬間、彼は怪物の敵役から、時代を二分する真の英雄へと昇華した。

拍車と鮮血、ステイヤーの魂

翌年の天皇賞・春。満身創痍のタケホープを、嶋田功の拍車が激しく打つ。ゴール後の彼の脇腹には、血が滲んでいたという。それは残酷な光景かもしれない。だが、そこまでしてでも勝ちたいと願う執念、それに応えようとする馬の魂がそこにはあった。華やかな脚光を浴びたライバルの陰で、常に実力だけを信じ、身体を削って走り続けた孤高のステイヤー。彼の名は、単なる「怪物を倒した馬」としてではなく、不屈の精神を象徴する名馬として、今も競馬史の奥深くに刻み込まれている。

「ハイセイコーがひまわりなら、タケホープは月見草だった」
――典厩五郎

派手な輝きはなくとも、暗闇の中でこそその真価を発揮する。タケホープがターフに残した足跡は、どんな華やかなレコードよりも重く、尊い。私たちは忘れない。怪物の影で、誰よりも力強く、誰よりも気高く駆け抜けた、不屈の二冠馬の姿を。