「三冠」という言葉が持つ重みは、時代によって変わる。 しかし、メジロラモーヌが成し遂げたそれは、現代の三冠とは一線を画す「神聖な未踏の地」の開拓だった。 牝馬がまだ「華」として扱われていた1980年代、彼女は自らの走りでその認識を覆し、力強く、そして妖艶に頂点へと駆け上がった。
魔性と呼ばれた、その美しき加速
彼女の代名詞となった「魔性の青鹿毛」。 それは、ただ馬体が黒く美しかったからではない。 一たびゲートが開けば、他馬を寄せ付けない圧倒的なスピードと、相手を威圧するような凄まじい勝負根性を見せたからだ。 デビュー戦での3.1秒差という伝説は、後の全勝三冠へと繋がる序章に過ぎなかった。 4コーナーで馬群の隙間を縫い、一瞬で先頭を捉えるあの加速は、見る者の心を奪い、ライバルたちの戦意を喪失させる「魔力」を秘めていた。
完全三冠という名の、究極の証明
競馬において「絶対」は存在しない。 しかし、1986年のメジロラモーヌは、その「絶対」に最も近い場所にいた。 三冠レース本番だけではない。彼女はその全てのステップ(トライアル)においても勝利し、文字通り一つも負けることなく女王の座を勝ち取った。 体調不良や調整の遅れ、挫石といった苦境ですら、彼女を止めることはできなかった。 最後のエリザベス女王杯、クビ差の攻防を制してゴールした瞬間、競馬史に残る「完全三冠」が完成したのである。
永遠に語り継がれる、女王の気高き影
引退から長い年月が経ち、後継の三冠牝馬たちが誕生した今でも、メジロラモーヌという名は色褪せることがない。 それは彼女が、道なき道を切り拓いた「初代」だからであり、その走りに、日本競馬が夢見た全ての美徳が詰まっていたからだ。 彼女の血は、今もグローリーヴェイズなどの名馬へと引き継がれ、ターフを駆け続けている。 私たちが「三冠」という言葉を聞くたび、その深淵に浮かび上がるのは、誇り高く、気高く、そしてどこまでも美しい、あの青鹿毛の女王の姿なのである。
「彼女が走り終えた後の静寂さえも、私は忘れることができない」
――奥平真治
12戦9勝。史上初の牝馬三冠。 その数字の背後にある、気高い精神と圧倒的な美学。 メジロラモーヌ。彼女こそが、日本競馬が永遠に恋をし続ける、真の「初代女王」である。




