サラブレッドの宿命は、常に勝利という二文字で測られる。 しかし、ダノンザキッドという馬が歩んだ19戦の道のりは、 勝敗の数だけでは語り尽くせない、濃厚な人間模様とドラマに彩られていた。 1億800万円という期待を背負って生まれた少年は、 瞬く間に「2歳王者」という肩書きを手に入れ、バラ色の未来を約束されたはずだった。
あまりにも深い、挫折の谷
絶頂は一瞬だった。3歳春、単勝1.3倍の弥生賞での敗北。 そして、1番人気で挑んだ皐月賞での15着大敗。 「何が原因か分からない」。主戦・川田将雅の困惑と、陣営の落胆。 追い打ちをかけるような骨折の判明。 世間は彼を「早熟だった」と切り捨て、新たなスターへと目を向けていった。 しかし、ここからが「ダノンザキッド」という物語の真骨頂だった。
「終わった馬」への反旗
長い休養、そして復帰後の勝ちきれない日々。 それでも、彼は走り続けた。マイル、2000m、そして海を越えた香港。 鞍上が北村友一に代わっても、その力強いフットワークは失われなかった。 2022年のマイルCS。8番人気の低評価を覆し、2着に突っ込んできた姿に、 多くのファンはかつての王者の誇りを見た。 彼は「終わった」のではなく、戦うたびにその魂を研ぎ澄ませていたのだ。
最後に見た、世界という地平
シニア世代となってからの彼は、もはや勝つこと以上に、 そこに「存在し続けること」の難しさと尊さを体現していた。 ゲート前でのアクシデントや、中山でのトラウマと戦いながらも、 G1の舞台になれば必ず掲示板に名を連ねる。 香港カップでの2着、大阪杯での3着。 あと数センチ、あと数秒で掴み損ねた栄冠。 しかし、その「惜敗」の積み重ねこそが、彼の誠実な走りの証だった。
「能力は出している。でも、あと一歩。それがこの馬の愛すべきところでもある」
――競馬関係者の言葉より
2023年12月。香港マイル。12着という結果で、彼はターフを去った。 通算19戦3勝。数字だけを見れば、2歳時の輝きが最大のピークだったかもしれない。 しかし、挫折から立ち上がり、世界を相手に戦い抜いた彼の足跡は、 いつまでも私たちの記憶に残り続ける。 天才として生まれ、不屈の戦士として走り抜いたダノンザキッド。 その熱き魂は、今、種牡馬として次世代へと受け継がれていく。




