「ジオグリフ」——地上に描かれた巨大な絵画。 その名の通り、彼は芝、砂、そして異国の地という巨大なキャンバスに、自らの爪痕を深く、力強く刻み込んできた。 ドレフォンという、ダートの短距離で鳴らした父の血を受け継ぎながら、彼が最初に輝いたのは中山の緑のターフだった。 ノド鳴りという競走馬にとって致命的とも言える持病を抱えながら、それでも彼は喘ぐ呼吸を勝利への執念に変えてみせた。
皐月賞、ただ一度の栄光
2022年4月。18頭の精鋭が集った皐月賞。 人気は後に世界を席巻する同期の天才、イクイノックスに集まっていた。 しかし、中山の急坂で一際輝いたのは、福永祐一に導かれた栗毛の馬体だった。 イクイノックスを真っ向から競り落とし、一馬身の差をつけてゴール板を駆け抜けたあの瞬間。 それは、血統の常識を打ち破り、自らの価値を証明した「天才」の証明であった。
砂塵の果てに、見えたもの
栄光の後の道のりは、決して平坦ではなかった。 怪我、適性への模索、そしてダートへの挑戦。サウジアラビアの乾いた砂の上で、彼は再びその適性の幅広さを見せ、世界中の関係者を驚かせた。 「どこでも走る、何にでも挑む」——それはジオグリフという馬が持つ、ある種の気高さでもあった。 幾度となく敗北を喫しても、彼は決して心折れることなく、ターフへと戻ってきた。 2024年、札幌で見せた2年ぶりの連対は、彼の長い旅路がまだ終わっていないことを、そしてその誇りが枯れていないことを何よりも雄弁に物語っていた。
次代へと繋ぐ、地上絵
通算21戦。その数字には、一つの勝利で満足することなく、あらゆる可能性に挑み続けた陣営の期待と、それに応え続けた馬の誠実さが詰まっている。 福永祐一に最後のG1タイトルを授け、木村厩舎に初のクラシック制覇をもたらした彼は、いま静かにその翼を休め、次代の「地上絵」を描く準備を始めている。 私たちがその名を思い出すとき、そこにはいつも中山の坂を駆け上がる勇姿と、砂塵を裂いて突き進む不屈の闘志が重なって見えるはずだ。
「この馬は、どんな時でも自分の力を出し切ろうとしてくれる。」
――木村哲也
かつて、中山に伝説を描いた一頭の馬がいた。その名はジオグリフ。 彼が刻んだ足跡は、決して消えることのない「歴史の地上絵」として、永遠にターフに残り続けるだろう。





