ステイゴールドの血を引く馬と言えば、誰もが「スタミナ」「底力」「荒々しい気性」を思い浮かべるだろう。 しかし、インディチャンプはそのすべての先入観を、たった1分30秒9という数字で破壊して見せた。 彼は血統の常識を超え、マイルというスピードの極限地帯で革命を起こした「異端の天才」だった。
潜伏の時、そして出会い
デビュー当初の彼は、まだ自身の肉体に宿る圧倒的なエネルギーを制御しきれずにいた。 重賞の壁に跳ね返され、クラシックの喧騒から一歩引いた場所にいた彼を見出したのは、一人の名手だった。 「この馬、走るわ」。福永祐一が小豆島特別で感じた確信は、単なる予感ではなく、運命の始まりだった。 じっくりと馬の成長を待った音無調教師と、その才能を信じて疑わなかった福永騎手。 この二人のプロフェッショナルの忍耐が、後に「マイル王」と呼ばれる怪物を覚醒させる。
府中に吹いた衝撃の疾風
2019年の安田記念。主役は、現役最強の名を欲しいままにしていたアーモンドアイだった。 しかし、その熱狂の真ん中で、虎視眈々とチャンスを狙う一頭の快速馬がいた。 直線、馬場の真ん中を切り裂くように伸びてきたその姿に、府中の観衆は息を呑んだ。 絶対女王を抑え、掲示板に表示されたのは「1:30.9」という驚天動地のレコードタイム。 それは、インディチャンプという名が競馬史に黄金の刻印を打った瞬間だった。
王者の誇り、そして継承へ
春秋マイル制覇。その称号を手にしてもなお、彼は走り続けた。 新興勢力であるグランアレグリアとの死闘、スプリント戦への挑戦、そして異国の地・香港でのラストラン。 全23戦、彼は常に全力で、常に速さを追求し続けた。 その走りは、ステイゴールドが持つ「不屈」の精神と、母系が持つ「閃光」のスピードが高次元で融合した、一つの芸術品だった。
「期待していた馬でしたが、GIで期待が確信に変わりました。この馬の強さを証明できてよかった」
――福永祐一
現在は種牡馬として、自らの快速遺伝子を次世代へと繋ぐ仕事に従事している。 彼の産駒がターフを駆け抜けるとき、私たちは再び思い出すだろう。 ステイゴールドの血に眠っていた「速さ」という可能性を、究極の形で表現した一頭の王者がいたことを。 インディチャンプ。その名は永遠に、マイルの風の中に刻まれ続ける。




