チュウワウィザード。その名が示す通り、彼は日本のダート戦線に魔法をかけ続けた。しかし、それは決して一瞬の奇跡のようなものではない。絶え間ない努力と、どんな過酷な環境にも屈しない鋼の精神が紡ぎ出した、究極の「安定」という名の魔法であった。
遅れてきた魔法使い
3歳の春、彼はまだ主役ではなかった。新馬、未勝利戦で3着を繰り返し、初勝利は初夏。しかし、ここから彼の物語は急加速する。名古屋グランプリで重賞初挑戦・初制覇を飾ると、古馬となってからは「チュウワウィザードが掲示板を外す姿など想像できない」と言わしめるほどの堅実さを見せた。父キングカメハメハから譲り受けた万能性と、母父デュランダルの加速力。それらが砂の上で完璧に融合し、彼は唯一無二の存在へと昇華していった。
世界の壁を壊した日
彼のキャリアにおける最大の白眉は、2021年のドバイワールドカップだろう。サウジアラビアでの敗戦を受け、陣営は大胆な調整法を選択した。異国の地で、誰も試みなかった手法を信じ抜く。その期待に応え、砂塵舞うメイダンの直線でインから突き抜けた。勝ったミスティックガイドには届かなかったが、その2着は日本のダート馬が「力負け」していた時代に終止符を打つ、希望の光だった。戸崎騎手の謙虚な謝罪に対し、笑顔で握手を求めた陣営の姿は、彼がいかに愛され、信頼されていたかを物語っている。
美しき魔術の終焉
7歳になっても、その魔力は衰えなかった。川崎記念を圧勝し、ドバイで再び3着、そして帝王賞でのクビ差2着。まだまだ第一線で戦える、誰もがそう信じていた。しかし、脚部に忍び寄った異変が、あまりにも静かに、そして唐突に彼の現役生活に幕を引いた。「パフォーマンスが落ちて引退するわけではない」。大久保調教師の言葉には、頂点のままターフを去らせることへの誇りと、かすかな寂しさが滲んでいた。
「精神的に非常に強い。これほど信頼できる相棒はいなかった」
――川田将雅
通算26戦、獲得賞金10億円超。その輝かしい数字以上に、私たちの記憶に残っているのは「どんな時もそこにいる」という、あまりにも当たり前で、あまりにも困難な、彼だけの「誠実さ」だ。砂の魔術師が去ったターフには、今も不屈の蹄跡が深く刻まれている。




