その馬は、かつて迷いの中にいた。父オルフェーヴルの強烈な血を継ぎながら、芝のレースでは決定打を欠き、条件戦を足踏みする日々。39戦という長いキャリアの半分以上を、彼は「未完の大器」という言葉とともに過ごしていた。しかし、5歳の春。陣営が下した「ダート転向」という決断が、眠れる怪物を目醒めさせることになる。
遅れてきた黄金の衝撃
砂の上で、彼は水を得た魚のように躍動した。後方待機から爆発的な末脚を繰り出すそのスタイルは、かつて世界のターフを沸かせた父の姿を彷彿とさせた。東京大賞典でGI初制覇を果たすと、そこからは快進撃が止まらない。日本国内では収まりきらないその才能は、自然と海を越え、中東の砂漠へと向かった。
メイダンの夜に響いた咆哮
2023年ドバイワールドカップ。それは日本競馬史に刻まれる奇跡の夜だった。先行有利とされるメイダンの馬場で、彼は最後方から一気に全頭をぶち抜いた。「日本馬には無理だ」と言われ続けてきたダートの本場での勝利。泥だらけの顔で先頭を駆け抜けたウシュバテソーロの姿に、世界中のホースマンが戦慄した。この瞬間、彼は日本競馬の歴史を塗り替える「賞金王」への階段を登り始めたのだ。
終わりなき挑戦の果てに
サウジ、ドバイ、そしてアメリカ。彼は常に世界最強の座を求め、過酷な輸送と環境の変化に耐え続けた。パドックで見せるやる気のなさは、裏を返せば極限の集中力と強固なメンタルの証。どれほどの名馬でも超えられなかった22億円という壁を突き破り、彼は静かにターフを去る。2025年4月、ドバイ。最後の直線で見せた不屈の走りは、最後まで「ウシュバテソーロ」という稀代の個性派そのものだった。
「日本人ジョッキーが世界で戦えることを示せて誇りに思います」
――川田将雅
大器晩成。その言葉をこれほどまでに見事に証明した馬が他にいただろうか。芝での苦闘も、砂での栄光も、すべては彼が最強であることを証明するための伏線だった。ウシュバテソーロ。彼が残した22億円の蹄跡は、これからも夢を追うすべてのホースマンにとっての北極星となるだろう。




