タスティエーラ。イタリア語で「鍵盤」を意味するその名は、まさに彼の歩んだリズムそのものだった。時に軽やかに、時に重厚に。彼がターフで奏でた旋律は、世代の頂点からどん底の大敗、そして異国の地での劇的な復活まで、聴く者の心を揺さぶる変奏曲のようだった。
不信を力に変えた戴冠
彼が日本ダービーを制したとき、一部のファンからは「幸運な勝利」という声も上がった。皐月賞2着からの反撃。スローペースを見越した完璧な先行策。しかし、その勝利の価値を彼自身が証明し続ける日々が始まる。父サトノクラウンから譲り受けた勝負根性と、母系から引き継いだ豊かなスタミナ。彼は常に、自分に向けられる懐疑的な視線を、自らの走りによって上書きしていった。
香港の空に響いた復活の音色
4歳春の大阪杯11着。誰もがその衰えを疑ったとき、陣営は決して諦めなかった。堀宣行調教師による繊細な調整、そして馬自身の持つ「賢さ」が再び噛み合ったとき、奇跡は起きた。2025年、香港・シャティン。盟友ダミアン・レーンと共に掴み取ったクイーンエリザベス2世カップの勝利は、日本のダービー馬が世界のトップクラスであることを、これ以上ない形で証明してみせた。1年11ヶ月という長い沈黙を破る一撃は、まさに彼のキャリアにおける最大のクライマックスだった。
美しき終止符
2025年12月28日、有馬記念。彼は最後の舞台に立つ。14戦という激動のキャリアを経て、彼は今、最高に研ぎ澄まされた状態でラストランを迎えようとしている。勝っても負けても、彼がターフに刻んできた「不屈」の二文字は、次代へと引き継がれる種牡馬としての価値を揺るぎないものにするだろう。最後の旋律が鳴り止むその時まで、私たちは彼の背中に、真の王者の姿を見続ける。
「彼は自分の仕事を完璧に理解している、真のプロフェッショナルだ」
――D.レーン
さらば、不屈の鍵盤。君が奏でた不朽の名曲は、日本の競馬史の中に、永遠に響き渡り続ける。未来のターフに現れるであろう彼の産駒たちが、また新しい調べを紡ぎ出すその日まで。




