かつて、日本の短距離馬が世界で勝つことは「不可能」だと信じられていた。パワーとスピードが支配する香港の芝1200m。そこは日本馬にとって難攻不落の要塞だった。しかし、2012年12月、一頭の馬がその歴史に終止符を打つ。ロードカナロア。ハワイの海の神の名を冠し、香港で「龍王」と呼ばれた彼は、その咆哮一つで世界の勢力図を塗り替えた。
挫折から生まれたスプリントの王道
彼のキャリアは決して順風満帆な滑り出しではなかった。デビュー直後のマイル戦での敗北。そこで陣営は「1200mへの専念」という英断を下す。安田隆行調教師は、彼の内に秘めた異次元のスピードを見抜いていた。その確信は現実となり、1200m戦に転じてからの彼は、まるで解き放たれた獣のように勝利を重ねていく。岩田康誠という最高のパートナーを得て、彼は「速い馬」から「負けない馬」へと進化した。
香港の地に刻んだ不滅の記憶
ロードカナロアの真の伝説は、香港の沙田競馬場で完結した。2012年、日本馬として初めて香港スプリントを制覇。しかし、真の衝撃はその翌年だった。引退レースとして迎えた2013年香港スプリント。世界の強豪が横一線に並ぶ直線、彼だけが別の次元の加速を見せた。2馬身、3馬身、そして5馬身。ゴール板を駆け抜けた時、背後の馬たちはもはや視界にすら入っていなかった。19戦13勝、生涯3着以内100%。その数字以上に、この5馬身差の圧勝劇は「世界最強」の称号を不動のものとした。
龍王の血は、未来へ
彼はターフを去り、種牡馬となってもその王座を譲ることはなかった。初年度産駒から史上最強牝馬アーモンドアイを送り出し、父としても年度代表馬の座に就いた。彼が証明したのは、日本のスピードが世界に通用するということ。そして、そのスピードは次世代へ受け継がれ、今もなお世界のどこかで新たな伝説を生み出し続けている。
「彼はスプリントという枠を超えた、真のパーフェクトホースだった」
――競馬史が刻んだ賛辞
龍王の物語は終わらない。彼がターフに残したあの閃光のような末脚は、これからもファンの記憶の中で、そしてその血を受け継ぐ仔たちの走りのなかで、永遠に輝き続けるのだ。




