Vodka

The EmpressVodka

「牝馬だから」という言葉は、
彼女の前では意味をなさなかった。

PROFILE

生誕2004.04.04
調教師角居勝彦 (栗東)
主戦騎手四位洋文 / 武豊
通算成績26戦10勝 [10-5-3-8]
主な勝鞍東京優駿 (G1)
ジャパンカップ (G1)、天皇賞・秋 (G1)
安田記念 (G1) 2連覇、ヴィクトリアM (G1)
阪神ジュベナイルF (G1)

PEDIGREE

FATHER
タニノギムレット
(日本) 1999
ブライアンズタイム
タニノクリスタル
×
MOTHER
タニノシスター
(日本) 1993
ルション
エナジートウショウ

父はダービー馬、母系は名牝シラオキに遡る伝統の血。「ギムレット(ジンベース)よりも強い酒を」と名付けられたその名は、父を超える度外視の強さと、混じり気のない純粋な闘争心を象徴している。

CAREER RECORD

全レース成績

TOTAL: 26 RUNS10 - 5 - 3 - 8
DATERACE NAMECOURSE / DIST.JOCKEYRESULT
2009.11.29ジャパンカップ (G1)東京 / 芝2400mC.ルメール1st
2009.11.01天皇賞・秋 (G1)東京 / 芝2000m武豊3rd
2009.06.07安田記念 (G1)東京 / 芝1600m武豊1st
2009.05.17ヴィクトリアマイル (G1)東京 / 芝1600m武豊1st
2008.11.02天皇賞・秋 (G1)東京 / 芝2000m武豊1st
2008.06.08安田記念 (G1)東京 / 芝1600m岩田康誠1st
2007.11.25ジャパンカップ (G1)東京 / 芝2400m四位洋文4th
2007.05.27東京優駿 (G1)東京 / 芝2400m四位洋文1st
2007.04.08桜花賞 (G1)阪神 / 芝1600m四位洋文2nd
2006.12.03阪神ジュベナイルF (G1)阪神 / 芝1600m四位洋文1st
2006.10.292歳新馬京都 / 芝1600m鮫島克也1st
CAREER HIGHLIGHTS

女帝、歴史を穿つ

01
Tokyo Yushun
2-3
2007.05.27 / 東京 2400m

THE EMPRESS

第74回 東京優駿

64年という長き沈黙を破り、彼女は歴史の扉を蹴破った。牡馬最高峰の舞台、日本ダービー。直線、力強く抜け出したその背中には、誰も追いつけない。四位洋文の指立てガッツポーズと共に、戦後初、牝馬による頂点への戴冠が果たされた瞬間だった。

TIME
2:24.5
HISTORY
64 YRS
02
Tenno Sho Autumn
14
2008.11.02 / 東京 2000m

LEGENDARY BATTLE

第138回 天皇賞(秋)

宿命のライバル、ダイワスカーレットとの壮絶な叩き合い。極限のスピードで駆け抜けた2000mの果て、決着はわずか2cmのハナ差だった。1分57秒2。電光掲示板に刻まれたレコードタイムは、二頭の執念が引き出した次元を超えた証だった。

1着 ウオッカ2着 ダイワスカーレット
03
Yasuda Kinen
3
2009.06.07 / 東京 1600m

UNSTOPPABLE FORCE

第59回 安田記念

絶体絶命の絶望から、彼女は翼を広げた。直線で前を塞がれ、進路を失いかけた窮地。しかし武豊の導きに応え、わずかな隙間を割って異次元の末脚を繰り出す。不可能を可能にした逆転劇に、府中のスタンドは地鳴りのような咆哮に包まれた。

L3F
33.8
RESULT
WIN
04
Japan Cup
5
2009.11.29 / 東京 2400m

GLORIOUS END

第29回 ジャパンカップ

鼻出血のハンデを背負いながら、彼女は最後の意地を見せた。世界の強豪を相手に、ルメールを背に一歩も引かない闘志。ゴール板を駆け抜けた瞬間、G1勝利数は「7」に達した。府中の女王として、日本競馬の象徴として、その名を永遠に刻みつけたラストラン。

1着 ウオッカ2着 オウケンブルースリ
DATA ANALYTICS

府中の女王の
圧巻レコード

ウオッカが最も輝いた場所、それは東京競馬場だった。2008年天皇賞(秋)で記録した1分57秒2は、従来のレコードを一気に0.8秒も更新する異次元の時計。また、ヴィクトリアマイルで見せた1分32秒4というタイムも当時の衝撃であり、マイルからクラシックディスタンスまでを支配した能力の高さを示している。

1:57.2

RECORD TIME

2000m 走破時計

※2008 天皇賞(秋)

FUCHU DOMINANCE

東京G1制覇数
TYPICAL TOP FILLY2 - 3 WINS
AVERAGE G1
VODKA (AT FUCHU)6 WINS
TOKYO MASTER
TOTAL G1 TITLES7 WINS
HALL OF FAME
東京競馬場での圧倒的勝率
VODKA
“
本日(安田記念)のウオッカは、
正直言って怖いくらい強かったです。
主戦騎手 武豊
レース後インタビューより
“
彼女と一緒に歩んだ日々は、
私の騎手人生における誇りです。
元騎手 四位洋文
引退・追悼時のコメントより
FAN VOICES

ファンからの声

S

ダービーであの力強い走りを見た時、震えが止まりませんでした。牝馬が勝つなんて夢物語だと思っていたのに、彼女は現実に変えてくれた。あの日以来、私のヒーローはウオッカだけです。

K

ウオッカは私たちの憧れ。ダイワスカーレットとの天皇賞秋は、どちらも負けてほしくなくて、でもウオッカが勝った瞬間は涙が溢れました。強くて美しい、本当の「女帝」でした。

H

ジャパンカップで見せた鼻出血を堪えての勝利。あの闘志こそが彼女の真髄。記録以上の記憶を、いつも私たちは彼女から受け取っていました。東京の杜に咲いた、一輪の誇り高き花でした。

BEHIND THE SCENES

秘蔵エピソード

強さと脆さ、そして愛らしさが同居した素顔

01

「冠名」を捨てた命名の覚悟

父タニノギムレットはジンのカクテル。谷水オーナーは「父よりも度数の高い酒を」と「ウオッカ」の名を贈った。さらに「冠名のタニノをつけない、ストレート(割らない)の方が強い」という破格の願いが込められた。その名が示す通り、彼女は日本競馬界を酔わせるほどの強烈な走りを体現した。

02

額に輝く「ティアラ」の秘密

ウオッカの額には、常にティアラのような意匠の額革が輝いていた。実はこれ、兄タニノベリーニのために作られたものが流用されたもの。しかし、いつしかそれは彼女のトレードマークとなり、ファンの間では「女帝の王冠」として親しまれた。厩務員の中田氏は今もそれを、彼女の象徴として大切に語り継いでいる。

Daiwa Scarlet
THE ETERNAL RIVAL
DESTINY

DAIWA SCARLET

ダイワスカーレット

「剛」のウオッカに対し、「柔」と「安定」のダイワスカーレット。同世代に生まれた二頭の傑出した牝馬は、常に互いを高め合う鏡のような存在だった。

チューリップ賞から始まった死闘。桜花賞、秋華賞、そして伝説の天皇賞・秋。逃げるスカーレットを、地を這うような末脚で追うウオッカ。対戦成績こそウオッカの2勝3敗だが、数字では計れない絆がそこにはあった。

一頭だけでは、これほどの伝説は生まれなかった。彼女が「女帝」となるために必要だった、唯一無二のライバル。二頭の走った航跡は、今も競馬ファンの心の中で鮮やかに交差し続けている。

2008天皇賞(秋)
1stウオッカ
vs
2ndダイワスカーレット

時代を拓いた女帝

時代を拓いた女帝

彼女が駆け抜けた時代は、日本競馬における「性別の壁」が崩壊した時代でもあった。それまで牝馬は牡馬に劣るという固定観念を、その蹄の音で一つ一つ打ち砕いていったのがウオッカだった。彼女が見せたのは、単なる速さではない。運命に抗い、常識を嘲笑うかのような、圧倒的な生命の輝きだった。

64年の重みを一歩で越えて

2007年の春、周囲の反対や懸念を押し切って挑戦した日本ダービー。それは、当時の競馬界においては無謀とも言える選択だった。しかし、角居勝彦調教師と谷水オーナーは彼女の天賦の才を信じた。直線、坂を駆け上がる彼女の姿に、誰もが言葉を失った。アサクサキングスを突き放す三馬身。それは、失われていた牝馬ダービー制覇の歴史を、強引に現代へと引き戻した瞬間だった。あの日、競馬場に詰めかけた女性ファンの涙は、ウオッカが単なる競走馬を超えた存在になったことを示していた。

府中の杜で、神になる

「府中の申し子」と呼ばれた彼女にとって、東京競馬場の直線はまさに独演会の舞台だった。左回りの広大なコース、長く過酷な坂。そこで彼女は、何度となく奇跡を演じた。ダイワスカーレットとの死闘、絶望的な位置から差し切った安田記念、そして最後のジャパンカップ。彼女の美しい馬体、特に東京の緑に映える鹿毛の毛色は、見る者すべてを魅了した。負ける時も潔く、勝つ時は神がかり的に。その潔さと激しさが、多くのファンを惹きつけ、今もなお語り草となっている。

早すぎる別れ、永遠の伝説へ

繁殖馬としてアイルランドへ渡った彼女に、運命はあまりにも非情だった。2019年、蹄葉炎。闘病の末、15歳という若さで彼女はこの世を去った。しかし、彼女が遺したものはあまりにも大きい。かつて「牝馬だから」と囁かれたハンデを、彼女は「ウオッカだから」という賞賛に変えてみせた。今、ターフを駆ける多くの名牝たちの先駆者として、彼女の魂は永遠に走り続けている。私たちが東京競馬場の直線を眺める時、そこには必ず、あの勇壮な「女帝」の幻影が見えるはずだ。

「彼女ほどドラマチックな馬はいませんでした。勝つことも、負けることも、すべてが美しかった」
―― 競馬ファン一同

ウオッカ。その名の通り、混じり気のない、強く、そして清らかな一筋の光。彼女が刻んだ蹄跡は、これからも色褪せることなく、日本の競馬史を照らし続けるだろう。私たちは忘れない。かつて、時代そのものを置き去りにしていった、あの気高き牝馬の姿を。