サラブレッドの宿命は、走ること、そして勝つこと。しかしシャフリヤールという馬が残した足跡は、勝利という言葉だけでは到底語り尽くせない。彼は、日本のホースマンたちが夢にまで見た「世界の果て」をその眼差しに映し、実際にその蹄で踏みしめた、希代の冒険家だった。
10センチの先に見た、世界
すべては、あの初夏の東京競馬場から始まった。エフフォーリアという怪物をハナ差で退けた10センチ。その僅かな距離が、彼を日本一の座へと押し上げた。しかし、シャフリヤールはそこで安住することを選ばなかった。藤原英昭調教師の「ものが違う」という確信に導かれ、彼は翼を広げた。海を越え、砂塵の舞うドバイへ。冷たい風の吹くアスコットへ。そして西海岸の陽光あふれるアメリカへ。日本ダービー馬としての誇りを胸に、彼は一度も下を向くことなく、世界中のターフを駆け抜けた。
不屈のボイジャー
順風満帆な旅路ではなかった。喉の疾患、二桁着順の惨敗。年齢と共に増していく肉体の負担。多くの馬が引退を考えるような逆境にあっても、彼は戦い続けた。喉の手術を経て復帰し、アメリカで見せた3着。そして6歳にして迎えた有馬記念での2着。死枠と呼ばれた16番枠から、まるで3年前のダービーを見ているかのような、鋭く、美しい末脚。その姿は「かつての王者」ではなく、今この瞬間も戦い続ける「現役の英雄」そのものだった。
伝説は、次の世代へ
18戦4勝。数字以上に、彼が日本競馬に与えた影響は計り知れない。「ダービー馬は、世界へ行ける」。彼が示したその道筋は、これから現れる全ての若駒たちの羅針盤となるだろう。通算獲得賞金は15億円を超え、ディープインパクト産駒としても歴代屈指の功績を残して、彼はついにその旅を終えた。ゴール板を駆け抜けるたび、私たちは彼に夢を見た。国境を越え、時代を超えて。シャフリヤールという名の「黄金の航路」は、これからも私たちの記憶の中で、どこまでも続いていく。
「彼はただの馬ではない。日本の誇りを世界へ運び続けた、真の旅人だった」
――競馬ファンの記憶より
さらば、空飛ぶダービー馬。君が見せた世界の景色を、私たちは決して忘れない。君が切り拓いたその先には、また新しい物語が待っているはずだ。





