コントレイル——その名は「ひこうき雲」を意味する。父ディープインパクトが空を飛ぶように走った記憶を、空に残された軌跡のように継承していく。そんな願いを込めて名付けられた少年は、やがて日本競馬の歴史そのものを塗り替える「王」へと成長した。
亡き父への、最高の報告
2019年、父ディープインパクトはこの世を去った。その直後に頭角を現したのが、最高傑作と名高いコントレイルだった。無敗のまま皐月賞、日本ダービーを制し、迎えた菊花賞。アリストテレスとの壮絶な叩き合いは、単なるレース以上の何かを感じさせた。執拗なマークに苦しみながらも、最後は根性で差し切ったその姿。それは、父が成し遂げた「無敗三冠」という神域に、息子が自らの力で辿り着いた瞬間だった。
コロナ禍に差した、一筋の光
彼が走った2020年は、世界が未曾有の危機に揺れた年でもあった。無人のスタンド、静まり返った競馬場。しかし、テレビの画面越しに映る彼の走りは、沈んでいた日本中のファンに熱狂と希望を与えた。人々が直接集まることができない時代に、彼は「競馬」という文化の灯を守り続けた。父子二代での無敗三冠という、かつて誰も想像し得なかった奇跡を現実のものにすることで、彼は暗い世相を切り裂くひこうき雲となったのだ。
涙のラストフライト
無敗の快進撃の後に待っていたのは、最強牝馬アーモンドアイへの敗北、そして怪我との孤独な戦いだった。4歳シーズンの彼は、苦しんでいた。勝てない日々が続き、一部からは心ない声も飛んだ。しかし、陣営は諦めなかった。最後の舞台に選んだのは、かつて敗れたジャパンカップ。直線、福永騎手の合図に応えて彼が加速した時、かつての「飛ぶ走り」が蘇った。他馬を圧倒し、先頭で駆け抜けたゴール板。ルメール騎手さえも祝福の拍手を送る中、福永騎手の頬を伝った涙。それは、重圧から解放された安堵と、愛馬への無限の感謝が混ざり合った、競馬史に残る美しい涙だった。
「彼は僕の人生の全てを変えてくれた。これ以上の馬には、もう出会えないかもしれない」
――福永祐一
現在、コントレイルは種牡馬として、父ディープインパクトがそうであったように、次世代へその血を繋いでいる。彼が空に描いた軌跡は、決して消えることはない。ひこうき雲が消えた後も、私たちは青空を見上げるたびに思い出すだろう。父を超えようと足掻き、世界に希望を与え、そして完璧な姿でターフを去った、あの誇り高き三冠馬の姿を。




