その馬は、あまりにも遅く現れ、そしてあまりにも早く去っていった。 モーリス。デビュー当初は目立つ存在ではなかった彼が、 わずか2年弱で世界の競馬シーンを塗り替えてしまうとは、誰が想像しただろうか。 3歳時の苦悩、重賞での連敗。そこには「怪物」の片鱗はまだ見えていなかった。
眠れる獅子の目覚め
転機は4歳の春。環境の変化と休養を経て、彼は変貌を遂げた。 条件戦から始まった連勝街道。ダービー卿チャレンジトロフィーで見せた、 異次元の末脚は、もはや国内の枠に収まる器ではないことを告げていた。 安田記念でのG1初制覇、マイルチャンピオンシップでの春秋統一。 そして香港マイルでの圧倒的な勝利。 「アジアのマイル王」という称号は、彼のために用意された玉座だった。
距離の壁を超えて
マイル戦では敵なしとなった彼に、新たな挑戦が課された。 2000mという未知の領域。スタミナへの不安が囁かれる中、彼は天皇賞・秋で回答を示した。 R.ムーア騎手に導かれ、直線で堂々と抜け出すその姿に、距離の限界など存在しなかった。 続く引退レース、香港カップ。 出遅れすらハンデにならない圧巻のパフォーマンスで、彼は世界中にその強さを刻み込んだ。 G1競走6勝。そのすべてが、覚醒後のわずか1年半の間に積み上げられたものだ。
未来へ続く血脈
「まだ完成する前に引退させてしまう」 名伯楽・堀宣行調教師の言葉は、この馬の底知れなさを物語っている。 私たちは、モーリスの真の完成形を見ることなく、彼を見送ったのかもしれない。 しかし、その「未完成」の遺伝子は、次なる世代へと受け継がれていく。 スクリーンヒーローからモーリスへ、そしてその子供たちへ。 ロベルト系の爆発力とメジロの底力は、これからもターフを熱くさせ続けるだろう。
「彼は全てを持っていた。スピード、パワー、そして知性。まさにBeast(野獣)」
――R.ムーア
薄笑いを浮かべてターフを去った怪物、モーリス。 その圧倒的な強さと、愛すべきキャラクターは、 記録にも記憶にも残る「名馬」として、私たちの心の中で走り続けている。 アジアを制覇したその軌跡は、永遠に色褪せることはない。



