「終わりよければ全てよし」と言うが、これほどまでに完璧なフィナーレを迎えた競走馬が他にいただろうか。 引退レースの有馬記念。2着につけた差は5馬身。 それは単なる勝利ではなく、彼女が辿り着いた「完成」の境地を示すデモンストレーションだった。 リスグラシュー。その名は「優雅な百合」を意味するが、キャリアの終盤に見せた姿は、優雅さを超えた圧倒的な「強者」そのものだった。
善戦マンと呼ばれた日々
彼女の馬生は、最初から順風満帆だったわけではない。 2歳で重賞を勝つなど早熟の片鱗は見せたものの、クラシック戦線では常に「あと一歩」が届かなかった。 桜花賞2着、秋華賞2着。古馬になってもヴィクトリアマイルでハナ差の2着。 「強いけれど勝てない馬」。周囲からはそんなレッテルを貼られ、シルバーコレクターとして認知されつつあった。 しかし、陣営は諦めなかった。矢作調教師をはじめとするチームは、彼女の中に眠る「怪物の種」を信じ続けた。
覚醒の夏、そして世界へ
転機は4歳の夏。安田記念での惨敗を機に行われた、常識外れのハードトレーニング。 これが彼女の肉体と精神を劇的に変えた。 エリザベス女王杯でのG1初制覇は、もはや「善戦マン」の走りではなかった。 そして5歳、彼女は完全に覚醒する。 宝塚記念での圧勝劇、さらにオーストラリア最強決定戦コックスプレートでの歴史的快挙。 不利な大外枠、短い直線、異国の芝。全ての悪条件をねじ伏せて先頭で駆け抜けた時、世界は日本の牝馬の強さに震えた。
伝説になった日
迎えたラストラン、有馬記念。 相手は現役最強と言われたアーモンドアイをはじめとするG1馬たち。 しかし、レースはリスグラシューの独壇場となった。 直線、レーン騎手が合図を送ると、まるで他の馬が止まっているかのように加速していく。 中山の坂を駆け上がり、セーフティリードを保ったままゴール板へ。 ファンも、関係者も、そしてライバルたちさえも認めざるを得ない完全勝利。
「彼女は、私の想像を遥かに超えて進化していた」
――矢作芳人調教師
通算22戦7勝。決して高い勝率ではないかもしれない。 しかし、最後の3戦で見せた輝きは、競馬史において唯一無二のものである。 試練を乗り越え、成長し、最後に頂点へと登り詰める。 そのドラマチックな馬生は、私たちに「諦めずに進化し続けること」の尊さを教えてくれた。 リスグラシュー。世界を制した不屈の百合は、伝説となって永遠に語り継がれる。




